東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7357号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
一被告が貴金属の販売仲介等を業とする会社であり、原告主張のころ、原告から昭和五四年三月末日に集中決済する約で金地金五〇キログラムを一グラム当たり一二九八円で買受けることを委託されてこれを応諾し、右売買に基づく現物を右三月末日に原告に引渡すことを約し、買受けの保証として金地金四キログラムの預託を受けたことは当事者間に争いがない。
二そこで、被告主張の追加保証金の納付に関する約定の存在とその納付請求に対する不履行を理由とする手仕舞いの当否について審究する。
まず、<証拠>によると、原告は、日本貴金属地金市場の正会員と称する被告との間で右市場における金地金の延べ取引に関する本件委託契約を成立させたのであるが、その際原告が署名押印して被告に提出した延べ取引の委託についての約諾書(乙第二号証の一)と延べ取引約款と題する文書(乙第一号証)には取引委託に当たり日本貴金属地金市場の延べ取引約款に従つて売買保証金を被告に預託するほか相場の変動により売買保証金の二分の一以上の損計算勘定が発生したときは、被告の指定した日時までにその差額を追加保証金として被告に預託することとし、万一指定の日時までに預託しないときは、被告において任意に反対売買による処分をすることによつて取引委託契約を解除することができるとの趣旨の約定が記載されていることが認められる。
しかしながら、<証拠>によると、原告との折衝に当たつた被告長岡支店の外交員佐々木六男は、原告に対して右追加保証金に関する規定は本件取引の約定外であり、集中決済期までに値下りしても追加保証金を徴求することはせず、決済期には一グラム当たり七円の利益を保証する旨約束しており、前記約諾書も右のごとき約束を前提として追加保証金に関する条項の適用はないとの合意のもとに授受されたこと、そのような経緯があつたので、原告は、被告から一月一二日付の追加保証金の請求書を受けた際(この請求があつたことは当事者間に争いがない。)、早速佐々木六男に異議を述べ、佐々木から善処する旨の約束を取り付けたが、原告はこれだけでは満足せず、被告の社長にも直接電話をして追加保証金の徴求をしない旨の特約の存在を主張したこと、被告の社長はこれに対し顧客に迷惑をかけることはできないと述べ、その後取締役営業部長であつた橋本善雄を原告方に派遣したこと、橋本は原告の主張を聴き、本社へ帰つて社長と協議して善処すると言明して帰つたが、その後連絡がないまま推移したこと、三月に入つて再度橋本は原告方を訪れ、金地金の代金を支払つて現物を引取る方向で決済する意向を表明する原告に対し、保証金を返すから利益の方は半分に負けて欲しいと申入れ、原告もいつたんはこれを承知したこと、しかるに被告は、その後三月下旬に至つて突然態度を変え、本件買建ての受託契約は一月一九日の追加保証金不納付により手仕舞いされたと主張するようになつたが、原告は、そのような通知を当時受けておらず(乙第六、第七号証は原告本人尋問の結果に徴しその成立自体も疑わしく、手仕舞いのあつたことを認めさせる証拠として採用することはできない。)、また被告もそれまでの折衝の過程で原告に対し手仕舞いの話を全くしておらず、手仕舞いのあつたことを前提とするような事後処理の話も全く交わされていないことの各事実が認められる(この認定に抵触する証人橋本の供述部分は措信できない。)のであつて、以上の各事実に照らすと前記乙第二号証の一及び第一号証の記載があるからといつて、被告主張の追加保証金に関する約定の存在を認めることはでき<ない>。
(三宅弘人)